世界のミフネと持ち上げられた男が、生涯ただ一人だけ、面と向かって礼を言えなかった人がいました。志村喬。撮影部志望だった三船敏郎を、行き場のない居候として自宅の二階に住まわせ、手紙の宛名には「志村喬方 三船敏郎」と書かれていた、その人です。後に三船は知ります。あれは偶然の親切ではなく、黒澤明が「あの若いのの親代わりをやってくれ」と頼んでいた、仕組まれた親心だったのだと。これは、晩年の三船敏郎が一人語りで振り返る、五十本を超える歳月をかけて、ついぞ言えなかった「ありがとう」の物語です。
見どころは、表向きの美しい師弟関係の、その奥にある苦しさです。酔いどれ天使で本物の親子のように叱られ、七人の侍では勘兵衛と菊千代として向き合い、羅生門で世界へ羽ばたいた、その全ての画面の奥に、いつも志村喬がいました。賞状が一枚増えるたび、世界が喝采を送るたびに、三船の胸の奥は、しん、と冷えていく。たった一人の拍手が欲しかった。けれど見栄が口を縫い、明日でいいと先延ばしにするうちに、その明日は来なくなりました。七十六で逝った師の棺の前でも、言うべき一言だけは飲み込んでしまった、その悔いを、声も届かなくなった今、静かに語ります。
昭和の映画黄金期を懐かしむ方、名優たちの素顔を愛した方へ。そして、面と向かっては礼を言えないまま遠ざかってしまった、自分の根っこになった人がいる方へ。この独白は、きっと胸の奥のどこかに触れるはずです。最後までごゆっくりご覧ください。
▼ チャプター
0:00 言えなかった「ありがとう」
0:47 俳優になった男
2:44 居候になった世界的俳優
3:24 仕組まれた親代わり
6:30 芝居の中の親子
7:34 遠ざかる師弟
10:17 菊千代と勘兵衛
11:53 世界への道
16:04 孤児になった日
18:31 孤独な晩年
20:33 記憶の中の師
25:27 遅すぎた感謝
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