小芝風花の職人芸が泣かせる… ”蔦重”との恋を妨害した松葉屋なりの愛情とは?大河ドラマ『べらぼう』第9話考察&感想地獄にすら共に落ちることも許されなかった蔦重(横浜流星)と瀬川(小芝風花)
 もしかしたら、蔦重の方がある意味、残酷かもしれない。吉原の女郎たちを、瀬川を、幸せにしてやりたい。それは立派な志だ。目的を果たすだけのアイデアもある。だけど、向こう見ずで、自分が行ったことの結果、どういうしわ寄せが誰に及ぶかまでは想像が至らない。そういう青臭さが、誰かを苦しめることもある。

 でも、自分と一緒になりたくて足抜けの方法まで考えてくれたことが瀬川は嬉しかったに違いない。いねの「ここは不幸なところさ。けど、人生をガラリと変えるような事が起きないわけじゃない。そういう背中を女郎に見せる務めが、瀬川にはあるんじゃないかい?」という言葉を受け、鳥山に身請けされることを決意した瀬川。

 本の感想を伝える体で、「この馬鹿らしい話を重三が勧めてくれたこと、きっとわっちは一生忘れないよ。とびきりの思い出になったさ」と告げる。本に挟まれた文の一部は、破られていた。ようやく始まった2人の恋は一炊の夢の如く終わったが、瀬川はその思い出を文の一部とともに嫁ぎ先にも持っていき、心の支えにするのだろう。

 第9回のサブタイトルは「玉菊燈籠恋の地獄」。女郎たちにとって、恋は地獄の始まりでもあった。その地獄にすら共に落ちることも許されなかった蔦重と瀬川の恋を、切なくも美しく彩った森下佳子の脚本にただただ唸らされる。

【著者プロフィール:苫とり子】
1995年、岡山県生まれ。東京在住。演劇経験を活かし、エンタメライターとしてReal Sound、WEBザテレビジョン、シネマズプラス等にコラムやインタビュー記事を寄稿している。横浜流星主演の大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』(NHK総合)が現在放送中。貸本屋からはじまり「江戸のメディア王」にまで成り上がった“蔦重”こと蔦屋重三郎の波乱万丈の生涯を描く。今回は、第9話の物語を振り返るレビューをお届けする。(文・苫とり子)

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恋は地獄の始まり
 あまりにも長く、そして短い恋だった。蔦重(横浜流星)と花の井、改め瀬川(小芝風花)の初恋に終止符が打たれたNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第9回。

 蔦重は鳥山検校(市原隼人)が、瀬川を身請けしようとしていることを知る。瀬川は幼い頃からずっと、蔦重だけを思って生きてきた。だが、「どの子もかわいや」で、かつ鈍感な蔦重は瀬川の秘めたる思いに気づく気配もない。

 そんな中で舞い降りてきた、稀に見る“いい男”鳥山検校からの身請け話。瀬川は蔦重への燻り続けている恋心を断ち切るのにちょうどいいと、この話に乗っかろうとしていたのではないか。

 そして、瀬川が身請けされる。ひいては自分の目の前からいなくなってしまうというところまで来て、蔦重は彼女への恋心を自覚するのだ。ここまで20年かかった。正直遅すぎるし、瀬川の辛抱強さにも驚かされる。

 だけど、そんな長年の想いが報われた時の喜びといったら、途轍もないものなのだろう。蔦重の告白に何が起きたかわからないという様子で、瀬川は唇を震わせ、右目から一筋の涙を溢す。

 ずっと幼馴染みであり、親友で家族のような関係でもあった2人は甘い雰囲気になりようがなくて、「心変わりなんてしないだろうね!」「あたりめえだろがよ!俺ゃ、てめえの気持ちに気付くまでに20年かかってんだぞ。心変わりなんか、できっかよ」と、つい喧嘩口調に。それがおかしいやら、嬉しいやら、照れくさいやらで、最後は笑い合う2人があまりにも微笑ましかった。

 瀬川がぐいっと無邪気に涙を拭う姿も印象的だ。客の前なら、きっとこんな風に涙は拭かないだろう。蔦重の前では花魁ではなく、ただ1人の女の子になる。その違いを明白に演じ分ける小芝風花の職人芸には驚かされてばかりだ。 こうして想いが通じ合った2人だが、幸せは長くは続かなかった。千両もの身請け話を断った方が値打ちが高まると最もらしい理由をつけ、松葉屋の主人(正名僕蔵)といね(水野美紀)に辞退を申し出た瀬川。

 しかし、自身も元花魁で、女将として長年女郎たちを見てきたいねの目は欺けず、間夫ができたことをすぐに察される。客には決して靡かない鉄壁の女となれば、相手は蔦重しかいない。

 いねたちは2人が恋仲である証拠を掴み、折檻しさえすれば目を覚ますだろうと考えて監視の目を光らせる。だが、吉原の男と女郎の恋が御法度なんて、蔦重も瀬川も十分に理解していることだ。

 2人は、瀬川が年季明けを迎え、正式に吉原の門をくぐる日まで耐え忍ぶ覚悟だった。なにせ20年越しの恋なのだから。待つことなんて、少なくとも瀬川にとっては慣れっこなのだろう。

 ところが、2人が尻尾を出さないことに業を煮やしたいねたちは最終手段に出る。いねは襲名時にかかったお金を回収するという名目で、風邪を引いたということにして離れで瀬川に客を取らせた。その光景を蔦重に見せ、2人の心を容赦なくへし折っていく。

“足抜け”の先に待つもの
 瀬川の正確な年齢はわからないが、蔦重が25歳くらいなので、少し若いとしても年季明け(27歳前後とされている)まで多く見積もっても5年未満だろうか。ただ過酷な労働環境に加え、性病などが原因で女郎は短命であり、平均寿命は20代前半だったと言われている。

 その上、嫌がらせのように客を取らされたら、瀬川の身体が年季明けまで持つかどうかわからない。蔦重は“足抜け”を決意。貸本にその旨を書いた文を挟み、瀬川に渡す。

 だが、時を同じくして新之助(井之脇海)とうつせみ(小野花梨)が足抜けを決行。うつせみを身請けするには300両必要だが、浪人の新之助には払えない。うつせみは新之助を呼ぶ揚代を稼ぐためにおかしな客を取らなければならなくなり、追い詰められた末の決断だった。

 2人は大門を突破するも、途中で追っ手に捕まってしまう。瀬川に見せしめる意味もあるのだろう、いねはうつせみを厳しく折檻した。

 とんだ忘八だと言いたくなるが、そこまでするのはいねの優しさでもある。彼女の「あんた養おうとあいつは博打。あいつ養おうとあんたは夜鷹」という言葉が物語るように、たとえ足抜けが成功したとしても、幸せになれるとは限らない。

 追われる身でお金を稼ぐには博打か、吉原よりも酷い環境で男を取るしかない。そんな例を、いねはいくつも見てきたのだろう。

 それよりも金持ちに身請けされた方がずっといい。いねが四代目・瀬川を「迷惑千万な馬鹿女」と吐き捨てるのは、名跡を潰したからだ。彼女が色恋にうつつを抜かした挙句、自害したせいで、瀬川は不吉な名跡とされ、今まで誰も名乗ることができなかった。

 それさえなければ、花の井のように、何人もの女郎が瀬川を襲名し、高値で身請けされていったかもしれない。だから、いねは四代目を許さない。彼女は彼女なりに女郎たちの幸せを願っているのだ。

 また、松葉屋の主人もいねも蔦重たちの件は他の親父たちに報告することなく、自分たちだけで解決しようとした。噂が広まれば、瀬川の身請け話がなくなり、蔦重も吉原にいられなくなるかもしれないからだろう。もちろん瀬川が身請けされれば、松葉屋も潤うし、100%の善意ではないにしろ、吉原で生まれた2人に対する愛情はある。

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