「あの部屋は、僕が立つ場所だから」キッチンを撮れなかった本当の理由

コラム

2026/06/09

内見のたびに、僕は同じ部屋の前で足を止めていました。同棲する部屋を探していた僕たちは、いくつもの物件を見てまわっていたのです。けれど僕は、ある場所だけは写真に残せずにいました。

目次

閉じる

写真に残せなかった一室ずっと言えなかった思い打ち明けたときそして…写真に残せなかった一室

物件を見に行くと、僕はスマホでいろいろな場所を撮っていました。リビングの広さ、収納の位置、ベランダの向き。あとで彼女と見返せるように、気になったところはひと通り残しておくのが習慣でした。

ただ、キッチンの前に立つと、どうしてもカメラを構える気になれませんでした。他の部屋なら一枚撮れば十分なのに、台所だけは画面ごしに眺めるのではなく、自分がそこに立って料理をする様子を、頭の中で何度も思い浮かべていたかったのです。ここの動線は使いやすいか。鍋を置く場所はあるか。そんなことを考えていると、写真を撮ること自体を忘れてしまっていました。

ずっと言えなかった思い

僕は昔から料理をするのが好きで、一人暮らしの間も自分のためによく作っていました。彼女と一緒に暮らすなら、台所に立つのは僕でありたい。いつからか、そんなふうに考えるようになっていたのです。ある物件で、彼女が「ここのキッチン、ちょっと狭いね」と言いました。僕は「うん、でもここなら十分かな」と返しながら、頭の中ではもう、その台所で彼女に何を作ろうかと考えていました。それなのに、その気持ちを口に出せませんでした。料理を本格的に習ったわけでもない自分が、偉そうに「僕が作るよ」と言っていいのか。自信のなさが、いつも言葉の手前で僕を引き止めていました。

打ち明けたとき12

Share.
Leave A Reply