昼休みになると紙袋を持って消える先輩→後を追うと屋上へ続く階段の踊り場にあったのは
コラム
2026/10/28更新
昼休みを知らせるチャイムが鳴ると、隣の席の先輩はすぐに席を立っていました。紙袋を1つだけ持って、向かうのはエレベーターとは反対の方向。その日、行き先を確かめてみようと思ったのは、ほんの出来心でした。
目次
「ごめん、用事あって」と言われ続けて屋上へ続く階段の踊り場で「しばらく内緒にしてくれる?」と頼まれてそして…「ごめん、用事あって」と言われ続けて
入社した時から仕事を教えてくれている先輩は、以前は部署のみんなと連れ立って、近くの定食屋へよく出かけていました。様子が変わったのは、ここ1か月ほどのことです。
「先輩、お昼ごはん行きませんか?」
私が声をかけるたびに、先輩は少し困ったように笑いました。
「ごめん、用事あって」
先輩はそう言って紙袋を手に取り、休憩が終わる直前まで戻ってきません。思い出したのは、去年辞めていった同じ部署の人のことでした。その人も辞める前の数か月、休憩になるたびにどこかへ消えていて、あとから転職先との電話だったと聞いたのです。
先輩も、同じなのかもしれない。そう考え始めると、ほかの理由が浮かばなくなっていきました。
屋上へ続く階段の踊り場で
行き先を確かめようと決めたその日、少し間をあけて先輩の後を追いました。先輩が入っていったのは、フロアの端にある階段への扉。扉を開けた時には、もう姿はありませんでした。トイレや給湯室をひと回りしてから、もう一度階段へ。私たちのフロアは最上階で、上にあるのは立入禁止の札が下がった屋上への扉だけです。
1段ずつ上っていくと、踊り場に青い折り畳み椅子が広げてありました。座面の上には、書店のカバーがかかった分厚い本。鉛筆が挟まれ、色とりどりの付箋だらけです。横には、見覚えのある紙袋。
誰にも見つからない場所で、こんなに付箋を貼って読み込む本。転職先で必要になる何かなのだろうか。本に手を伸ばしかけて、引っ込めました。中を見てしまったら、先輩に顔向けできない気がしたからです。
その時、下の階から、階段を上ってくる足音が聞こえてきました。
「しばらく内緒にしてくれる?」と頼まれて12